「感覚」から「データ」へ。AIカメラによる来館者分析がテナント交渉と施設戦略を変えた 【神戸新聞会館(ミント神戸)様】
【取材協力】株式会社神戸新聞会館
商業運営本部 商業運営部 硲 様
三宮周辺の再開発が加速し、2030年頃までに様々な施設が増加する中、神戸の商業施設「ミント神戸」はアナログなカウンターによる感覚的な来館者把握から、AIカメラを活用した来館者データの活用を始めました。この転換により、テナントへの提案は数値的根拠を持つコンサルティングへと進化しました。商業運営本部でリーシング業務を担う硲様に、導入の背景から具体的な活用事例、そして今後の展望まで詳しくお話を伺いました。
– はじめに、硲様の部署の役割・業務内容について教えてください。
神戸新聞会館が運営しておりますミント神戸は、「大人を楽しむミント神戸」をコンセプトに、神戸・三宮エリアで30代から50代をターゲットとした商業施設です。私の所属する商業運営本部では、リーシング業務や館内の商業テナントの管理業務を担当しており、主な役割は、施設の売上維持・向上を目的として、来館者の属性データをテナント交渉や商品戦略(MD)提案に活用することです。また、東京を本社にもつテナント企業に対しては、神戸の現状や客層について説明する、いわばコンサルティングのような立ち位置も担っています。
導入前の課題:感覚頼みの提案から脱却 ー「床を貸す」だけではない、リーシング担当の役割
以前から来館者数を把握するために交通量調査は実施していましたが、アナログカウンターを使った計測が中心でした。そのため、施設内の映画館で上映されている作品や季節要因などによって数値が大きく変動し、施設全体の来館者像を継続的に把握するには限界がありました。
また、近年は三宮駅周辺で再開発が進行中で、商業施設同士の競争環境も大きく変化しています。テナント企業も複数の施設を比較しながら出店を検討するため、「ミント神戸にはどのようなお客様が来館されているのか」を、より客観的に説明できることが重要になってきました。
そうした中で、経験や感覚だけではなく、データを活用しながら施設の特徴を伝えていく必要性を感じ、AIカメラによる来館者分析の導入を決めました。
– 具体的にどのような点に課題を感じていましたか?
リーシング業務では、テナントに対して施設の魅力や客層を説明する機会が多くあります。例えば「女性のお客様が多い」「30代〜50代の利用が中心」といった感覚は持っていても、それを裏付けるデータがなければ説得力のある提案にはなりません。
特に全国展開しているブランドの場合、最終的な判断は東京本社で行われるケースが多く、担当者の感覚だけでなく、客観的な根拠が求められます。
ファッションやスポーツカテゴリーの誘致を進める際にも、「なぜその業態がミント神戸に合うのか」を具体的に説明できる材料が必要だと感じていました。

データを武器に、テナントの売上向上を支援
– 来館者データは、具体的にどのような場面で活用されているのでしょうか?
私たちの部署は、テナントに出店いただくだけでなく、その後も継続して売上向上を支援する役割を担っています。一般的には不動産業というイメージを持たれることが多いのですが、実際には小売業に近い視点も必要です。
新規出店を検討している企業に対しては、「ミント神戸にはどのようなお客様が来館しているのか」「どのような商品構成が合うのか」といった提案を行います。一方で既存テナントに対しては、来館者属性をもとに商品構成や販促施策、販売体制の見直しなどを提案しています。
例えば、来館者の年齢層が想定より高ければ、商品のラインアップや接客体制の見直しにつながります。しかし以前は客観的なデータが不足しており、来館者の実態に基づいた提案をしたくても十分な根拠を示せないことが課題でした。
私たちが目指しているのは、単に空き区画を埋めることではなく、テナントとともに売上を伸ばし、施設全体の価値を高めていくことです。そのための共通言語として、来館者データが大きな役割を果たしています。
導入後の効果:数字が生んだ信頼とMD戦略の進化─ データが明らかにした来館者の実態
– 導入後の変化について教えてください。
ミント神戸は「大人を楽しむミント神戸」というコンセプトを掲げており、これまではどちらかというと女性のお客様を意識した施設運営を行ってきました。
ところが実際に分析してみると、男性来館者が40%後半から50%弱を占めていることが分かりました。この結果を見て、「自分たちが思っていた施設像」と「実際の利用実態」に少し違いがあることに気づかされました。
その後は、男性向け商品の強化やスポーツカテゴリーの充実など、実際の来館者データを踏まえた提案ができるようになりました。テナントに対しても数値を示しながら説明できるため、以前より具体的な議論がしやすくなったと感じています。
データが裏付けた「大人を楽しむミント神戸」
ミント神戸では、2018年頃から施設の方向性を若年層中心から「大人を楽しむミント神戸」へと、よりシフトしてきました。しかし、それが実際の来館者層とどの程度一致しているのかは、感覚的な部分も少なくありませんでした。
今回データ分析を行ったことで、来館者の中心が30代〜50代であることが改めて確認でき、これまで進めてきた施設戦略の方向性に確信を持てるようになりました。その結果、販促施策についてもより大人向けの訴求へと軸足を置けるようになり、テナントに対しても「なぜこの商品やサービスがミント神戸に合うのか」を、根拠を持って提案できるようになりました。

今後の展望:変わりゆく三宮とともに、再開発が生む新たな人流を、次の成長へ
– 今後期待することや課題感を教えてください。
三宮エリアでは今後数年間にわたり、大きな環境変化が予定されています。
まず2028年に西日本最大級の新たな交通ターミナル「バスタ神戸三宮」が開業し、その後2031年~2032年頃には2期棟が完成します。さらに2030年にはJR三ノ宮駅の大型商業施設の開業も予定されています。三宮エリアの再開発によって、街の魅力はこれからさらに大きく変化していくと思いますし、人の流れや来街者の属性が変化する可能性が高いため、その変化を継続的に観測していきたいと考えています。
私たちにとっても、新しいお客様との接点が生まれる大きなチャンスです。だからこそ、ミント神戸ならではの強みやコンセプトを大切にしながら、データを活用して変化を的確に捉え、施設運営やテナント提案の質をさらに高めていきたいと考えています。
– 今後さらに取り組みたいデータ活用はありますか?
今後特に期待していることは二つあります。
一つ目はインバウンド需要の把握です。
神戸空港の国際化が進んでいるため、外国人来館者の割合や利用傾向を把握できれば、免税売上の拡大や店舗施策の検討にも活かせると考えています。
二つ目は、AIを活用したファッションスタイル分析です。
例えば来館者の服装傾向を「カジュアル」「スポーツ」「ドレス」といった形で把握できれば、施設に求められているテナント構成をより具体的に検討できるようになります。来館者数を把握するだけではなく、「どのような人が来館しているのか」をより深く理解することで、施設運営やリーシングの精度をさらに高めていきたいと考えています。
– ありがとうございました!