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生活道路における交通安全対策にAIを活用(株式会社オリエンタルコンサルタンツ様)


建設コンサルタントの株式会社オリエンタルコンサルタンツ様(本社:東京都渋谷区、創業:1957年)は、社会インフラ整備に関わる総合建設コンサルタントとして、交通・都市計画・防災・環境・下水道など幅広い分野で事業を展開しています。今回、安全対策の一環としてAI技術の活用に取り組まれた背景や、導入に至るまでの経緯について、交通政策部に所属する熊野様にお話を伺いました。


AIカメラの導入理由:物理対策が難しい生活道路の安全性向上のため

ー熊野様の所属部署と業務内容を教えてください。

私は建設コンサルタントであるオリエンタルコンサルタンツ九州支社の交通政策部に所属しており、主に渋滞対策や事故対策に取り組んでいます。

ー導入検討前、どのような課題がありましたか?

当時、登下校中の児童と乗用車の交通事故がマスコミに大々的に取り上げられ、住宅地や通学路などの”生活道路”の安全対策への関心が高まり、令和3年8月に道路管理者(国・県・市町村)と警察が連携して取り組む「ゾーン30プラス※1」が始まった時期でした。ゾーン30プラスでは、生活道路の安全性を高めるため、車両が通行しにくくなるように物理的デバイス(例: ハンプ※2、道をくねくねさせるなど)を道路上に設置しますが、我々はその導入に若干のハードルがあると感じており、物理的デバイス以外の方法で安全性を高めるアプローチを模索していました。

※1:生活道路における交通安全対策の一環で、最高速度30km/hの区域規制に加え、物理的なデバイスを組み合わせることで、歩行者や自転車の安全な通行空間を確保する取り組み
※2:交通安全対策のために、道路の路面に設けられた凸状の部分のこと。通過する車両を一時的に押し上げるもので、事前にこれを見たドライバーが速度を落とすことが狙い。

ー物理的な対策を導入する際のハードルは何ですか?

物理的デバイス導入のハードルとして、大きく2つあると考えています。

1つは費用の問題です。物理的デバイスの導入は道路工事を伴うため、予算制約が大きい自治体では、予算確保の点でハードルが高くなります。

もう1つは地元住民との合意形成です。地面に凹凸をつける対策(ハンプ)は、車両の通行により振動や騒音が発生するイメージがあり、対策設置箇所近くの住民は難色を示しやすく、住民との合意が得にくい場合があります。

ー当社のサービスを選ばれた理由は何ですか?

Intelligence Design社のサービスを選んだ理由は、弊社内で紹介されたことです。当時、対策の方向性として、走行速度が高い乗用車に対して注意喚起を施すことで、物理的デバイスを用いずに速度抑制を図ることを考えていましたが、その中で走行速度が高い車両をどのように検知するかが課題としてありました。そのような中、社内の別事案でAIカメラにより車両挙動を検知するシステムを検討しており、その情報を共有してもらったことがきっかけです。御社の「IDEA series」なら、物理的デバイス以外の方法でも安全性を高めることができるのではと考え、御社のサービスを活用しようと考えました。


AIカメラの活用用途:小学校前の速度超過車両への注意喚起

ー今回の社会実験について教えてください。

この案件は、佐賀県杵島郡江北町の住宅地にある小学校前の道路で行われた社会実験です。この道路は小学校の校門前に位置し、横断歩行者や送迎車が多いほか、近くの幹線道路の混雑を避けたい一部の車が抜け道としても利用しています。地元から走行速度の高い車がおり危ないという声も挙がっており、安全性の向上が求められていました。

そこで江北町では、「ゾーン30プラス」の導入を進める中で、先ほどの小学校の校門前1箇所を優先し、スムーズ横断歩道を設置することとなりました。

当社としても、AIカメラを活用した生活道路の安全対策の実験フィールドを探しており、江北町のご担当者様にご提案し興味をもっていただけたことから、AIカメラと電光掲示板を連動させた注意喚起対策の実験を実施することになりました。実験は、走行速度30km/hを超過する車両を検知し、対象車にのみ注意喚起を行うことで、小学校前の走行速度を抑制することを目的に実施することになりました

ー社会実験では具体的にどのようなシステムが導入されましたか?

対象道路にAIカメラと電光掲示板を設置し、走行車速が30km/h以上の車両をAIカメラで検知した後、即座に数十m先の電光掲示板に速度抑制の注意喚起情報を表示させるシステムを導入しました。

※図-1 AIカメラと電光掲示板を連動させた注意喚起システムの概要(出典:生活道路におけるAIカメラと電光掲示板を連動させた 新たな安全対策の実験)

このシステムは、通学路において児童をはじめとする歩行者の安全性向上につながる対策であり、道路管理者と警察が「ゾーン30プラス」を進めている中で、物理的なデバイスを用いず安全性を高める対策として、非常に価値あるものであったと考えています。

ーAIカメラ導入前に懸念点はありましたか?

導入前の懸念点としては、対象車両の挙動を正確に計測できるかという点でした。具体的には、進行方向の識別、車と車以外の分類、正確な走行速度の取得、および計測漏れがないかです。当社としても、AIカメラを活用した社会実験が初めてだったので、事前に調整・検証したいとお伝えさせていただきました。

ーAIカメラ導入までの準備や調整でどのような工夫をされましたか?

AIカメラ導入前の懸念点を解消するため、実験開始の約1週間前にテストを実施しました。このテストでは、電光掲示板やAIカメラを現場に設置し、一時的に本番同様の運用を行いました。その際、Intelligence Design社のサポート担当の方も現場に立ち会っていただき、カメラの画角や車速計測線の位置を調整していただくことで、対象車両の挙動を正確に計測できるようになりました。テストにも関わらず、Intelligence Design社の担当者が現場で参加いただいたことで、調整が非常にスムーズに進み懸念点を解消することができたと感じております。


社会実験の効果:速度抑制と安全運転意識への働きかけに効果があった

ー導入後の成果や変化はありましたか?

はい、実験期間中の速度分析とアンケート調査の結果から、走行車両の速度抑制効果を確認することができました。また、システムに気づいたドライバーのうち、9割以上が「表示を見て速度を落とそうと思った」と回答しており、ドライバーの安全運転意識の向上にも寄与することが分かりました。

図 システム導入による効果(出典:株式会社オリエンタルコンサルタンツプレスリリース_R5.4.11)

ー関係者や社内からの評価はどうでしたか?

江北町様からは「先進的で効果的な取り組み」として前向きな評価をいただき、特にネガティブな意見はありませんでした。また社内においても、対外的な業務成果発表会における会社の代表業務として選ばれたことや、実験内容のプレスリリースも行うなど、評価されていると認識しています。


今後の展望:課題を踏まえた段階的活用を検討

ー導入後に新たに見えてきた課題や改善点はありますか?

課題としては、システムの導入・運用に関わる費用の確保が挙げられます。多くの自治体への展開を考えると、システム導入費用のほか、機器のメンテナンスや故障時の対応など維持管理費用の確保を合わせて考えていくことが課題として考えられます。

ー今後の展望や、同様の課題を抱える自治体へのアドバイスをお願いします。

システム自体は非常に良いと感じています。生活道路の交通安全対策はどの自治体でも抱えている課題であり、AI技術による交通安全対策はその課題を解決する糸口となり得ると考えています。地元住民や学校等へ安全対策の必要性が伝われば導入は進んでいくと期待しています。今後の展開としては、物理的デバイスの設置が困難な場所や、物理的デバイスだけでの解決が困難な場合に、今回のシステムの導入を提案することを考えています。


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