イベントにおける混雑緩和とマーケティングデータ取得にAIを活用 (株式会社ミライト・ワン様)
株式会社ミライト・ワンは、株式会社ミライト・ホールディングス、株式会社ミライト、株式会社ミライト・テクノロジーズの3社統合により、2022年7月1日に発足した企業です。「技術と挑戦で『ワクワクするみらい』を共創する」をパーパス(存在意義)に掲げ、情報通信設備建設や総合設備事業で培った技術力を基盤としています。同社は、街づくり・里づくりや企業DX・GX、グリーンビジネス、グローバル事業などに邁進し、顧客や社会の課題解決、地域の活性化に取り組んでいます。今回、大規模イベントでの混雑緩和とデータ活用の一環としてAI技術の活用に取り組まれた背景や、導入に至るまでの経緯について、3Dデジタルツイン技術を活用して新しいビジネスを創出する部署に所属し、イベントDX:設営計画サービスをリリースしている本多様と渡部様にお話を伺いました。

株式会社ミライト・ワン みらいビジネス推進本部 本多 淳子 様、加藤 広昭 様、渡部 和博 様
AIカメラの導入理由:大規模イベントにおける人流・車流の課題解決のため
ー所属部署と業務内容を教えてください。
私たちは、3Dデジタルツイン技術を活用して新しいビジネスを創出する部署に所属しており、主にイベントDX:設営計画サービスをリリースしています。このサービスは、花火大会などへの導入を通じて、コスト削減に貢献することを目指しています。
ー導入検討前、どのような課題がありましたか?
背景として、コロナウイルスの収束に伴い、花火大会やフェスなどの大規模イベントが増加しています。これに伴い、入場や退場時に人が集中し、混乱や時間のかかりすぎるという点がイベント運営における大きな課題となっていました。
花火大会主催者が抱える具体的な課題としては、主に以下の2点が挙げられます。
- イベント開催時の人や車の混雑緩和、特に駐車場への車の集中緩和。
- 入場者の年齢層や男女比率といったマーケティングデータの取得。
これらの混雑問題は、特に私たちが実証実験を行った東北地方の花火大会においては、2020年の開催開始当初からの課題でした。混雑による不利益としては、顧客満足度の低下やクレームの発生、ひいてはその後の集客への悪影響が懸念されていました。マーケティングデータが取得できないことによる直接的な不利益はなかったものの、今後のプロモーション施策の参考になるはずだったと認識していました。
ー当社のサービスを選ばれた理由は何ですか?
Intelligence Designのサービスは、社内の他支店からの紹介で知りました。もともと、渋谷センター街でのプロジェクト※.1について聞いていたこともあり、大規模なイベント現場でも正確に人流を計測できる技術ではないかと関心を持ちました。
選定の決め手となったのは、予算に見合ったコスト感であることに加え、時間単位で分析できるスポット利用型のサービス形態がイベントでの活用に非常に適していた点です。
※.1:渋谷センター街のサイト閲覧数が100倍に。AIカメラのライブ配信で防犯強化と人流データの利活用を推進。
AIカメラの活用用途:東北地方の花火競技大会での人流・車流の可視化
ー今回の社会実験について教えてください。
今回の実証実験は、2023年10月8日に開催された東北地方の花火競技大会において実施されました。このプロジェクトは、3Dサービス化の一環としてAI画像解析が必要であるという考えから派生したものです。
実証実験の目的は、イベント開催時の人や車の集中という課題に対処するため、AI画像解析技術を用いて入場者や駐車場への車両の状況を可視化し、それが課題の抽出や解決策の確認に有効なデータとなるかを検証することでした。
具体的には、2箇所の入場ゲートと4つの駐車場に向かう道路にカメラを設置し、映像を記録しました。これらの映像をIntelligence Design株式会社のAI画像解析サービス「IDEA series」 を用いて解析し、入場者の入場数や属性、駐車場の車の入場数、混雑の指標となる滞留時間を抽出しました。
ーAIカメラ導入前に懸念点はありましたか?
導入前の懸念点としては、屋外かつ遠距離での属性取得の精度を挙げていました。特に人の顔が小さく映る状況下で、属性が正確に取れるかという点が危惧されていました。
ーAIカメラ導入までの準備や調整でどのような工夫をされましたか?
上記の懸念は、Intelligence Design社のサポート担当との打ち合わせを通じて、最適な画角設定を行うことで解消されました。また、デジタルツインを活用した「イベントDX:設営企画サービス」 を利用し、3Dモデル上でカメラの設置位置や解析対象(人や車)をシミュレーションすることで、現地でのカメラ等の設置作業の効率化が立証されました。これにより、設置時は決められた条件で設置すればよいだけになり、短時間での設置が実現しました。
社会実験の効果:混雑状況の可視化と施策効果の確認に有効性を確認
ー導入後の成果や変化はありましたか?
はい、実証実験の結果、入場者や駐車場への入場状況を可視化できることが確認されました。これにより、従来の経験に頼った運用課題の抽出や、人流を均一化する施策の効果を確認できる有益なデータとなることが確認できました。さらに、従来の人手によるカウントと違い、稼働をかけずに可視化できるというメリットも確認できました。
具体的には、以下の成果が得られました。
- 人のカウントは非常によく、ピーク時間帯の把握や数値目標設定が可能になった。
- 車の台数も問題なく取得でき、滞留時間の相対的な把握により混雑の見える化やSNS施策の効果測定が可能になった。
- 具体的な課題抽出に有効だった。
- 「入場者割合4%以上のピークを下げ平準化させる」
- 「花火開始予定時間に入場が間に合わなかった入場者約10%を減少させる」
- 施策効果の確認が可能になった。
- SNSなどで15時までの入車を推奨する施策を実施していたが、可視化したことで65%が入場を終えており、施策に効果があることが確認できた。
- 13:50-15:00まで滞留時間が10秒以上になっており、渋滞が発生していたことがわかった。この状況から、16:10-16:30に発生する渋滞と共にこの点を改善する課題が見つかった。
ー関係者や社内からの評価はどうでしたか?
イベント主催者はこれまで経験や感覚に頼っていたため、今回の取り組みで定量的にデータが見える化されたこと、改善策実施後の数値目標設定や効果確認が可能になったことで、非常に高い評価を得ることができました。
今後の展望:属性データ精度の向上とリアルタイム解析の推進
ー導入後に新たに見えてきた課題や改善点はありますか?
新たな課題としては、男女別や年代別などの属性については正確な判定ができませんでした。特に、9割が男性と判定されるなど、屋外での属性取得には課題が残りました。また、滞留時間については一部ゲートで人の重なりが多すぎて二重検知が発生したケースもありました。スポット利用における学習不足も課題であると認識しています。
ー今後の展望や、同様の課題を抱える自治体へのアドバイスをお願いします。
今後も混雑や警備といった課題を抱える他の大会やイベントに向けて、今回のようなAI解析技術を活用したサービスの展開を強化していきたいと考えています。特に、取得できなかった属性データの精度向上が今後の活用における重要な課題です。
今後は、録画映像での解析だけでなく、リアルタイムでの解析を行い、その場でフィードバックすることで、ダイナミックな運用人員配置や受付場所の変更など、よりスムーズな運用を実現する取り組みを進めていきます。これらのイベントで得られたノウハウを蓄積し、イベントのDXを推進するサービスへの活用を目指します。Intelligence Design社には、引き続き屋外AIカメラの改善と今後のサービスアップデートに期待しています。